平成20年度芸術選奨が発表、文部科学大臣賞に鄭義信、松本雄吉

 文化庁は6日、平成20年度の芸術選奨を発表、舞台芸術関係では文部科学大臣賞に『焼肉ドラゴン』で鄭義信、『呼吸機械』で松本雄吉が選ばれた。


 舞台芸術関連の受賞者と受賞理由は以下の通り。

[芸術選奨文部科学大臣賞]
部門 受賞者 贈賞理由
演劇 (ちょう) 義信(うぃしん)  新国立劇場で,日韓合作として上演された鄭義信作「焼肉ドラゴン」は,昭和四十五年前後の関西を舞台に,焼肉店を経営する在日コリアン一家と店に出入りする人々,やがて彼らが離散していく姿を,陰影と笑いに富む生き生きとしたタッチで描き出した。日韓の俳優たちが,日本語と韓国語で演じたその舞台は,東京とソウルで上演され,観客に深い感銘を与えた。在日コリアンの歴史の重みと痛みに正面から向き合い,完成度の高い作品に仕上げた鄭氏の劇作術は見事である。梁正雄(やんじょんうん)氏との共同演出で活気あふれる舞台を生んだ手腕も評価できる。
松本(まつもと) 雄吉(ゆうきち)  「維新派」主宰の松本雄吉氏は約四十年間,野外劇の作・演出を続けてきた。平成二十年十月,滋賀県長浜市の琵琶湖畔で上演した「呼吸機械〈彼〉と旅をする二十世紀三部作#2」は,舞台奥が湖へ水没してゆく前代未聞の構造。前作はブラジル移民の流浪を描き,今回はポーランドを舞台に,戦災孤児の放浪と成長,孤独な魂を描いた。壮大なセット,独特の拍子,さらに歴史をのみ込む悠久の時間を思わせる湖面と一体化した脚本・演出は,優れた成果を挙げた。
舞踊 酒井(さかい) はな  十代半ばより舞踊家としての道を歩み始めた酒井はな氏は,平成九年の新国立劇場開場以来,同劇場のバレエ公演において中心的役割を果たしてきた。近年は,古典のみならず,コンテンポラリー,ミュージカルと表現の幅を広げ,他ジャンルのアーティストとも積極的に交流するなど,従来のバレリーナの枠に囚われぬ活躍が目立つ。「カルメンby石井潤」(新国立劇場 三月)では,優れた解釈と演技力で著しい成果を収め,その魅力をいっそう深めた。
花柳(はなやぎ) (もとい)  年少の頃から優れた舞踊技芸を身に備えた花柳基氏は,近年,古典,新作のジャンルを超えて舞台成果を収め,内面性の充実にも一日の長を発揮するに至っている。「第十回基の会」(国立劇場大劇場 九月)では,長唄「黒塚」他で見事な舞台をつくった。また,「花柳舞踊研究会」(国立劇場 九月)で上演した「空の初旅(そらのはつたび)」で,卓抜な演技を示したのに加え,舞踊集団「()の会」の中核の一人として作品をリードするなど,その業績は多彩であり,今後への期待も大きい。
評論等 津野(つの) 海太郎(かいたろう)  「ジェローム・ロビンスが死んだ」は,有名なアメリカ生まれの振付家J・ロビンスの死を悼んで事績を追った著者が,はからずも知った故人の一面-赤狩り時代の裏切り,ユダヤ人で同性愛者だった事実などを,次々に解明していく推理ドキュメンタリー風の評伝。面白いだけでなく,ミュージカル世界を通して,国家と芸術家の問題が,軽妙な文体の裏に,さりげなく語られている。この国のサブカルチャー時代を身をもって生きた一文化人ならではのユニークな一冊といえる。

 

[芸術選奨文部科学大臣新人賞]
部門 受賞者 贈賞理由
演劇 市川(いちかわ) 亀治郎(かめじろう)  新春浅草歌舞伎で演じた「祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)〜金閣寺」(浅草公会堂 一月)の雪姫は,「三姫」に数えられる大役の一つで,市川亀治郎氏は初役にもかかわらず,「縛られた姫」という制約の中に,格調と瑞々しい情感のこもった演技が秀逸だった。また,新秋九月大歌舞伎における「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)」(新橋演舞場 九月)のかさねは,端正な芸格で,一途な女心の切なさ,裏切りへの怨念を清元に乗せて見事に踊り切り,歌舞伎の次代を担う活躍への大きな期待を感じさせた。
舞踊 平山(ひらやま) 素子(もとこ)  海外での研修を終えて帰国後,ダンサーとしてめきめきと頭角を現し,「Butterfly」(平成十七年),「DANAE」(平成十八年)など次々に秀作を発表,さらに近年は振付・演出の分野にも芸域を広げた。また,並行して演劇・スポーツなど隣接ジャンルでの積極的な参加も見逃せない。今回発表したDUO「春の祭典」(新国立劇場中劇場 十一月)は,これら多角的な才能を一気に投入,おなじみストラビンスキーの曲を,斬新な視点と手法で斯界に送り出した,真にオリジナルな現代舞踊の逸品である。

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