劇場=高円寺:座・高円寺・あわ踊りホール
7/25(土)・ 26(日)
評価:★★★★(Very Good)7/25(土)昼所見
●原作=ウルフ・ニルソン(「さよなら、マフィンさん」)
●脚本=クラウス・マンヌー
●演出=ビヤーヌ・サンボー
●出演=クラウス・マンヌー、エルセ・アンカー=ミュラー、横田桂子
この春オープンした座・高円寺が夏休みの時期の企画として、子ども向けの海外のカンパニーを招聘している。そのなかのひとつ、シアター・リフレクションはデンマークの劇団。人形やオブジェを使った演出でせりふをまったく使わない作品も多く、舞台と客席が近い親密な雰囲気が特徴。2年前に初来日したときの公演も評判を呼んだという。
さて、今回の公演は日本でも「さよなら、マフィンさん」という題名で絵本が出ていたお話しを舞台化した作品で、小さな靴箱の家に住むおじいさんねずみのマフィンさんが主人公。彼を知っている人間の子どもの語りで話しが進み、マフィンさんの幸せな結婚生活の話や、かつてキュウリの重量挙げでチャンピオンになったことなどが語られ、最後はマフィンさんが天国に旅立って、その後にはきれいな花がいくつも咲く……という内容。
上演時間が40分もない小品だが、とてもよくできているのに驚かされた。原作のお話しがいいこともがあるが、それをうまく舞台化している。人形で作ったマフィンさん、彼の住むドールハウスのような家が非常に精巧に出来ている(揺り椅子がちゃんと動くのにもびっくり)。子どもたちはそういうドールハウスみたいセットがあるだけで、興味津々で舞台に集中してしまう。ところがその舞台で演じるのは男性ひとり。人間の子どもの語りとマフィンさんの人形を、彼ひとりで演じ、それに合わせて女性がチェロを演奏する。もちろんせりふはすべてデンマーク語。その横に通訳の女性が座っている、と思って芝居が始まると、彼女は通訳しない。男性の動きで、ねずみのマフィンさんのところに手紙がきて、それを読み見終わったマフィンさんが手紙を食べちゃう……。ひとしきりお話しが進んだ後で通訳の女性が日本語で話し出した(出演しているのは黒テントの女優の横田桂子。厳密には通訳ではなく日本語でお話を語っている)。初めは、どうしてすぐに翻訳してくれないのか不思議に思っていたが、すぐに合点がいった。子どもたちが目の前の芝居と青い目の外人さんの分からない言葉を受けとめて、想像力で理解しようとする時間をもつために、あえてひととおりその場面が終わってから説明しているのだ。
このあたりは芸術監督の佐藤信の判断なのだろう、さすがによく考えてる。よく考えるとこの公演はなんて、親密な感じで出来てるんだろう。小さな舞台を取り囲むように観客が見てる。世田谷パブリックシアターでも、子ども向けの作品を作っているが、あそこはもっと大作主義。演劇的にトップレベルのものをお金と時間をかけて、世界に向けて発信していく、というイメージ。それに対して、座・高円寺はもっと身近で普段着感覚。ちょっとご近所の縁側をのぞいたら面白いことをやってるので、お邪魔しちゃいました、みたいな感覚である。
どちらも大切なことだが、普段着感覚で2週間の間にクロアチア、イタリア、デンマーク、ベトナム、カンボジアからカンパニーがきて、こどもが 1500円(未就学なら500円!)で、さまざまな文化と出会えることの方が、ものすごい贅沢なんじゃないかと気づいた。それにはシアタートラムとかじゃなくて、このあわ踊りホールのフラットで、ちょっとしたスペースっていうのがちょうどいい。
これから1週間であと2つのカンパニーの公演が観られる。勉強にゲームにと忙しい今どきの子どもたちに、せっかくの夏休みに普段とはちょっと違った演劇にふれてもらいたいと思う。
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