プロデューサー綿貫 凜が、毎回演劇界で話題の劇作家や演出家を起用し、人間ドラマを堪能させる作品を上演しているオフィスコットーネ。この夏は今売れっ子の演出家、森 新太郎とともに夏に向け『怪談 牡丹燈籠』を上演する。
四谷怪談、番町皿屋敷と並んで怪談物の定番ともいえる牡丹燈籠は、明治の落語家三遊亭圓朝が、中国の怪奇物語に想を得て創作した物語だ。今回の公演では演出の森とプロデュースユニット、モナカ興行を組む劇作家フジノサツコが台本を担当。牡丹燈籠で一番よく知られている幽霊と人との叶わぬ恋が展開するお露・新三郎の物語だけでなく、その周囲で繰り広げられる人間たちの色と欲が織りなすエピソードについても盛り込み、テンポよく進んでいくという。
出演するのは、柳下 大、山本 亨、西尾友樹、太田緑ロランス、松本紀保、青山 勝、松金よね子ら。このうち松本紀保は3月に上演された『ザ・ダーク』に続いてのオフィスコットーネへの出演となる。父は9代目松本幸四郎という梨園の名家に生まれながらも、椿組やチョコレートケーキ、棧敷童子といった劇団に招かれ小劇場を中心に活動、独自の道を歩んでいる。今回は松本に新作『牡丹燈籠』のこと、また自身の女優としての歩みについて聞いてみた。
オフィスコットーネプロデュース『怪談 牡丹燈籠』は、7月14日(金)− 30日(日)錦糸町すみだパークスタジオ倉で上演。
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■自信の演じるお峰と物語について
自分が演じる役お峰は夫である伴蔵(ともぞう)以外とはあまりやりとりのない役だが、お峰がある言葉を口にすることで、物語が動き出す重要な役。
お露と新三部というよく知られている幽霊の怖さだけでなく、生きている人間の怖さも描かれているところが見どころだという松本。
■松本自身から見たお峰の魅力
その場の思いつきで、後先考えずに感情の流れままに言ったせりふで夫の伴蔵を侵食していく、女の魅力がある人物だという松本。それとは対象的に伴蔵は、お峰の話す言葉をもとに先のことを見据えて罪を犯す。お峰こそが物語をドラマチックにするために必要な人物だという。
■相手役・伴蔵の山本亨について
今回、相手役の伴蔵を演じる山本とは、松本が女優としてデビューしたT.P.Tによく出演していた役者同士として旧知の仲。昨年の夏には椿組『贋・四谷怪談』で、お岩、伊右衛門の夫婦を演じており、2年連続で怪談物で夫婦を演じることになった。
■演出の森 新太郎について
前々から色んな人から体験談として、稽古時間が長い、そして稽古がしつこい、という演出家として噂を聞いていたという松本。だが、実際に演出を受けてみると「その人物が話す言葉に込められた情報をよく考えてください」など、納得のいくことばかりで、もっと稽古してほしいくらいだと話す。
■役作りのときは役に近づくか、役を引き寄せるか?
どちらかというと役に自分を近づけていく方だという松本。だがある程度役が出来ると自分に引き寄せて演じる部分も出てくると話す。
■現代的な衣裳で世話物のせりふを語る
稽古場で着ているような服を着ることになるだろうという松本。本読みの段階で演出の森がなるべく普遍的な物語として上演したいと語っていたことも合わせて、現代的な洋服で江戸前の台詞を話すことへの違和感はないという。
■客席と舞台が近い劇空間の魅力
T.P.Tがかつてレジデンスアーティストとして活動していたベニサンピットで女優としてデビューした松本。かつて倉庫だったベニサンの扉を開け、外から舞台に登場するという印象的な初舞台を経験したせいもあって、客席との緊密な空気感を味わえる小さな劇空間に惹かれると語る。
■プロンプターから女優へ
幸四郎家の長女として生まれたが、芝居をやろうとは全く考えていなかったという松本紀保。それがある日父に頼まれセゾン劇場『リア王』(93年)の稽古にプロンプターとして参加し、そこでスタッフからT.P.Tのワークショップに参加してみれば?と言われたことがきっかけになって、T.P.Tの『チェンジリング』(デヴィッド・ルヴォー演出、94年)で役者としてデビューを果たした。
■小劇場で活動するのはT.P.Tでデビューしたから
父を筆頭に、弟の染五郎、妹の松たか子と他の家族は商業演劇を中心に活動しているが、紀保だけは小劇場での活動が多い。その理由はT.P.Tでデビューしたため、そこで出会った小劇場の役者たちと芝居をするようになり、ごく自然な成り行きだったと紀保は語る。
■小劇場と大劇場、それぞれの魅力
小劇場は客席と舞台が一体になる濃密さが魅力だという松本。一方、大劇場は1000人以上もいる観客ひとりひとり全員が自分を集中して観ていると感じるときがあって、その鳥肌の立つような瞬間は大劇場ならではのものだという。
■演劇のプロデューサーについて
松本は2014年11月に自身の主演・プロデュース企画で松田正隆の『海と日傘』を上演した。キャスト、スタッフ、劇場の人にまで一人ひとりと関わっていくことの大変さを感じたが、そのために智恵を出し合うことが面白いという。その経験を踏まえて、今回のプロデューサー綿貫凜について「本当にたくましいと思うし、どういう視点でこの俳優やスタッフを集めたのか聞いてみたくなります」と笑う。
■今後の予定について
『怪談 牡丹燈籠』の公演が終わるとすぐ、笹峯愛が主宰するaibook PRODUCE第3回公演『疾走』(8月23日(水)−29日(火)下北沢駅前劇場)の稽古に入るという松本。また、自身のプロデュース企画についてもまた挑戦したいという。
取材:ステージウェブ編集部
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