宮城聰が語るSPAC「ふじのくに せかい演劇祭2015」

インタビュー

4月上旬に都内で行われたプレス発表会では、宮城が書いた「敗者のいない競技とは」と題した文章が配られた。文化芸術の競い合いこそ、互いを切磋琢磨し洗練させつつ、敗者を生み出さない競技だと語るメッセージには、現在の我われを取り巻くパワーポリティクスへの強い危機感が込められている。
そういった宮城の考えは、今年の演劇祭で自身が演出する新作にも反映されている。今回宮城が取り上げるのはベルギーの小説家・劇作家のトム・ラノワが書いた『メフィストと呼ばれた男』。1936年にクラウス・マンが書いた小説『メフィスト』をもとにした作品は、当時、ドイツ最高の俳優と謳われ、国立劇場の芸術監督でもあった実在の人物グリュントゲンスをモデルに、時代に翻弄される天才俳優の姿を通じて「劇場とは、芸術とは何か?」を問いかける社会派作品だ。物語は1932年、ドイツ・ベルリンの国立劇場で行われている『ハムレット』の稽古場から始まる。そこへ総選挙でナチスが第一党になったとの報せが入り、劇団員たちは動揺する。看板女優のレベッカは身の危険を感じ、国外へ逃亡する。残った演出家のクルトはかつてメフィスト役で大当たりした名優。彼のもとに「新体制で文化大臣になる」という男が現れ、左翼活動家ヴィクターに代わり、新しく劇場の芸術監督になるよう誘う。劇場を、芸術を守るためと信じて、その申し出を受けたクルトだったが、次第に時代の波に飲み込まれ……。
一方宮城は、今年が早稲田小劇場が誕生して50年にあたることから「アングラ演劇50年」という切り口で、オルタナティブな表現を追求している作品群をプログラムした。その流れで自身が手掛けるもう1本が唐十郎作の『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』だ。2009年に上演し野外劇場3ステージ公演がソールドアウトとなったプロダクションの再演となる。
今年の演劇祭の全体テーマと自身の手掛ける2作品について、芸術総監督の宮城に舞台芸術公園で話を伺った。

「ふじのくに?せかい演劇祭2015」は、4月24日(金) ─ 5月6日(水・祝)、静岡芸術劇場および静岡舞台芸術公園で上演。
「ふじのくに せかい演劇祭2015」の公演情報はこちら =>

■今年の演劇祭で掲げた3つのキーワード
宮城は今回の演劇祭にあたって、「敗者のいない競技」「空気を読まない」「アングラ演劇50年」という3つのキーワードを掲げている。一見するとバラバラなキーワードだが、宮城の中ではひとつにつながっているようだ。

 

■『メフィストと呼ばれた男』を上演する意味
宮城が今回上演する『メフィストと呼ばれた男』を初めて観たのは2007年のアヴィニョン演劇祭でのこと。その時は、とても気の利いた演劇好きのための芝居、としか思えず、まさかそれから数年後にこの作品が扱うテーマが日本で切実なものになるとは思ってもみなかった、と語る。

 

■全体主義的な社会のなかで、芸術監督が取るべき道は?
物語に登場する演出家のクルトが置かれた状況は、ひょっとしたら宮城自身にも降りかかってくるかもしれない。果たしてその時、宮城なら現実に身を委ねつつも演劇を続けていくのか、あるいは自らの信念に従って社会に迎合せず演劇を捨てるのだろうか?

 

■リアリズム的な演技を採った理由は?
リアリズム的な手法を用いる理由について宮城は、あえて演出家による作品解釈や、見せ方の演出にこだわるのではなく、そこで描いた内容そのものについて一緒に考えてもらいたいからだ、と話す。

 

■『ふたりの女』を再演するもうひとつの意味
「アングラ演劇50年」というテーマで取り上げられた作品ではあるが、宮城はこの作品自体が三里塚闘争を背景とした政治の季節の演劇だと語り、今年の演劇祭に込めた想いを明かす。

取材:ステージウェブ編集部 柾木博行

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