「世の中のあるべき姿をまず劇場が創っていく」─シライケイタ座・高円寺芸術監督が語る『夏の夜の夢』

シライケイタ座・高円寺芸術監督
インタビュー
杉並区の公共劇場、座・高円寺。シライケイタがその2代目芸術監督として就任して1年あまりが経った。就任した当時は既に年度内のプログラムはすべて決定していたが、それから1年経ち、ようやく劇場の主催公演でシライ自身の演出による新作『夏の夜の夢』が上演される。稽古中のシライに新作について、また芸術監督としての活動について話を聞いた。
──「劇場へいこう!」シリーズは、昨年まで「星の王子さま」を元にした『小さな王子さま』と宮沢賢治原作の『フランドン農学校の豚~注文の多いオマケ付き~』でした。今年は『フランドン農学校の豚』に代わって劇団かもめんたるの岩崎う大さんが上演台本を手掛け、シライさんが演出を担当するシェイクスピアの『夏の夜の夢』が上演されます。

シライケイタ(以下、シライ) 僕はシェイクスピア作品で俳優としてスタートしたんですが、実は今までシェイクスピアを演出したことがなかったんです。この企画を考える中で、制作スタッフから「シェイクスピア作品を岩崎さんと一緒に作れば、子供たちにも面白く見せられるんじゃないか」と提案があり、岩崎さんと相談して『夏の夜の夢』をやろうと決めました。

──杉並区のすべての小学校4年生に鑑賞授業で見てもらうそうですが、シェイクスピアは難しいとは思われなかったですか?

シライ それは考えなかったですね。人が人を好きになるということとか、妖精たちの魔法という点は、きっと小学校4年生の子どもたちにもシンプルに楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。もちろん、シェイクスピアの戯曲をそのままやると台詞がちょっと難しいかもしれないですけど。もともと上演時間1時間という条件があるので、『夏の夜の夢』を原作にどんなものが作れるか探りながら、脚本を岩崎う大さんにお願いしました。

──上演時間は1時間以上は無理なんですか?

シライ 学校の授業時間の中で行っているので、だいたいそのくらいの時間になります。マチネの場合は10時半開演で11時半に終わって給食を食べに帰らなきゃいけない。生徒たちの学校生活のルーティーンをなるべくくずさない形で劇場に来てもらおうとすると、どんなに長くても65分くらいが適当かと思います。

──『夏の夜の夢』を65分バージョンでやるのはなかなか……

シライ はい、なかなかです。歌あり、踊りありですから。初めての通し稽古では80分あったので、そこから15分詰めないと。ま、初めてなので、いろんな余計な間とかセリフが遅かったりとかありますから、できると思います。

──シライさんは子供向けの作品は、これまでは?

シライ やったことはないですね。「子供から楽しめる」と明確に謳っている作品は本当に初めてで、結構周りにも驚かれました。「シライさん、子供向けの作品やれるんですか?」とか。シリアスで重厚なものを作っているイメージがあるみたいで(笑)。でもいつもと一緒ですね、やることは。もちろん子供たちにどう届けるか、どうすれば楽しんでもらえるか、ということは考えますが。でも同時に大人にも楽しんでほしいですし、いつも作っているものと何も変わらないですね。

──脚本は先ほども名前が出た岩崎う大さんですが、彼を起用した理由は?

シライ かもめんたるの岩崎う大さんは、芸人でもあるけれども、「劇団かもめんたる」の活動もやっていて、岸田戯曲賞の最終選考にも2度残ってるような劇作家です。うちの制作スタッフから、その岩崎さんの、単に面白いだけではない、自分の世界を見直すきっかけになるかもしれないひねりの効いた笑いを子供たちにも体験してもらいたいので「ぜひ岩崎さんに頼んでみたいんだ」と言われて、じゃあ引き受けてくれるか分からないけど、頼んでみようと。岩崎さんも子供向け作品は初めてだそうですが、お子さんがいらっしゃいますし、小学4年生がメインのお客さんだという話はしたうえで、「僕も初めてですけれども、岩崎さん、やっていただけませんか?」とお願いしました。

「小田島雄志訳による」の意味するもの

座・高円寺レパートリー「劇場へいこう!」『夏の夜の夢』座・高円寺レパートリー「劇場へいこう!」『夏の夜の夢』 撮影=梁丞佑

──今回、上演台本は小田島雄志訳をベースにされているそうですが。

シライ ベースと言いますか、岩崎う大さんにお渡ししたものが小田島雄志さんの翻訳のものだったということです。セリフとしては、翻訳のことばはほとんど残ってないですけど。それで、英文を直接読めない限りは、どの翻訳を参考にしたのかは、基本的に明示するべきだと思います。
この「原作=W.シェイクスピア(小田島雄志訳による)」という表記については、小田島恒志さんに相談したんですよ。実は、ずっと前に僕が上演台本を作った翻訳劇があって、恒志さんが「シライくん、これ誰かの翻訳を元にしたの? 直接読んだの?」って聞くから、「いや、翻訳を元にしてます」って言ったら「そしたら翻訳家の名前を書かなきゃダメだよ」と恒志さんに注意されたことがあって。そして「僕はこの国の翻訳者の立場を守らなければいけないから」って教えてくれたんです。

──物語的には『夏の夜の夢』の大まかな流れは残している?

シライ そうですね。う大さんには自由に脚本作ってくださいってお願いしたんです。『夏の夜の夢』そのものをやるというよりも、う大さんなりに浮かんだインスピレーションのままに書いていただければと思ったんです。ただ、こちらからは7人の俳優で上演するという条件がありましたので、元の戯曲のまんまは無理だろうと思っていたら、予想以上に忠実に脚色してくださいましたね。貴族や森の妖精たちの関係性も意識してくださって、あと職人たちも出てきますから、その3チームを7人で1人何役も早替えでやるんです。

──早替えに加えて歌もあるということですね。

シライ そうなんです。ストレートプレイとして書いていただいたんですけど、すごく台本がポップだったので、やっぱり子供たちに届けるときに歌や踊りの要素を入れたいなと思って、う大さんと相談して僕が歌詞を書いて。3曲かな。作曲は鈴木光介さんにお願いして、いい曲を作っていただきました。

400人以上の応募があったオーディション

──出演者では山﨑さんは歌が上手ですよね

シライ ものすごく素敵ですよ。僕は去年、流山児★事務所制作の『夢・桃中軒牛右衛門の』で山﨑さんと共演したんですが、その稽古中にこの企画が動いていたので、彼女だけは声をかけたんですよ。「もし来年空いていたら出てくれないか」と。山﨑さんは、ヘレナとタイターニアとヒポリタっていう三役をやります。それで、彼女だけ先に決まっていて、それ以外の方は公募でオーディションをやりました。

──そのオーディションには何人ぐらい応募があったのでしょうか?

シライ 急にオーディションを決めて公募したので、募集期間3週間ぐらいしかなかったんですけど、ワッと応募が来て、400を超える応募がありました。それで、全部目を通して書類選考して、気になった100人の方とお会いしました。2日間かけてお会いして20人に絞って、最終選考でその20人を4、5人ずつ5チームに分けて、1時間ずつお会いしましたね。

──オーディションで選考した際のポイントは?

シライ とにかく雰囲気のいいチームを作りたかったので、いい人たちとやりたいなと思って選びました。もちろん集客力もなきゃいけないんだけれども、公共として何ができるかを考えなければならなくて。この「劇場へいこう!」シリーズは1回作ると、数年間再演を繰り返して、地方公演もあるので、いい人たちと楽しく作りたいなっていう思いがあったので、まずは他人を尊重できて稽古場が楽しくなる場づくりを考えました。僕はオーディションの時はいつもそういう風に考えることが多いですね。

ろう者の俳優・西脇将伍との出会い

座・高円寺レパートリー「劇場へいこう!」『夏の夜の夢』座・高円寺レパートリー「劇場へいこう!」『夏の夜の夢』 中央が西脇将伍 撮影=梁丞佑

シライ あとは、今回、全く想定してなかったんですけど、書類選考の段階で西脇将伍くんというろう者の俳優さんが応募してきたんです。公募する際には日本語のできる方っていう条件をつけていましたが、それを西脇くんは拡大解釈して「日本手話ができるから日本語だって応募しました」って後から僕に言ってましたけど(笑)。手話を使う方とか全く想定していなかったんですけどお会いしてみたいと思って、実際に会ってみたらものすごく魅力的な俳優さんだったので、なんとか出演していただけないかと考えました。それで台本はそういうことを想定して書かれていないですけど、妖精パックが手話で話すっていう設定だったらあり得るな、と。

──西脇さんは耳も聞こえないんでしょうか?

シライ 全く聞こえないです。ご両親もろう者で生まれつき音のない世界を生きている人で、手話が第1言語の家庭の中で育って。もちろん、後から努力されて、文字を読んだりとか日本語も第2言語としては理解できますけど。でも音声言語としての日本語の世界には生きていないので、視覚言語としての手話が第1言語。僕は今回、同じろう者でも音を知っている人と、音を聞いたことがない人とでは、全く違うんだということから勉強させていただきました。日本手話っていうのは、日本語と文法が全く違うんですね。これが最初理解できてなくて、僕はパック以外の妖精たちもセリフを話しながら手話をやろうと思っていたんです。そうしたら「喋りながら手話をやることは不可能です。2つの言語を同時に話せないのと同じです」と言われました。つまり、手話は顔の表情そのものが文法に深くかかわっているので、喋りながら手話をするっていうことはそもそも無理だと。口の形や眉毛の上げ下げが文法と関わっているということなので。それで今回は西脇くんだけが手話で話して、台詞は外から別の俳優さんが手話にあててマイクで喋ることにしました。
だから今回、手話を第1言語とする俳優さんと、音声言語を第1言語とする俳優さんをどういう風に混ぜて作品を作っていくかについては、手話監修の方にも入っていただいてものすごく話し合いました。つまり、違う言語ですので台本を手話に翻訳する方が必要になったんです。その翻訳も、同じ日本語から手話にするやり方が全く幾通りもできるわけです。それを俳優さんにお任せするっていうのは、英語のできる俳優さんに日本語の翻訳を任せるのと同じことで、そんな無茶苦茶なことはないと。そこで手話監修、手話翻訳の人が必要だとなりました。もちろんその方と西脇くんが相談しながらやってますけれども、やっぱり監修の方の知見というかアイデアは素晴らしいものがあるので助かっています。
それに加えて稽古場には手話通訳の方が、常にいる状態ですね。それで時々手話監修の方がいらして、ここはこうした方がいいんじゃないかと台詞の微調整をして。翻訳劇やるときに翻訳者が台詞を稽古場でどんどん変えていくじゃないですか。それと全く一緒です。

──聴覚障害者向けに、手話で同時に台詞を通訳する公演もありますけども、今回の舞台はそういうのともまた違う?

シライ 違いますね。西脇さんが出演することで、ろう者のお客さんも沢山来てくれくださるでしょうし、その方たち向けにどういうフォローができるか考えました。西脇くんの演技は手話だから分かるけど、それ以外の人が喋る台詞は分からないので、きちんとろう者の皆さんをフォローするなら、通訳者を舞台上に配置する、もしくは字幕を出すことも検討したんですけど、今回はまずその取り組みの第1歩として台数限定ですけどもタブレットを貸し出しします。今何を喋っているか同時通訳で字幕にしたものを見ていただくっていうことで、今回はフォローさせていただこうと。あとは、ご希望の方には上演台本を事前にお送りもします。ただ上演中は客席が暗くて紙の台本は読めないので、公演中はタブレットで日本語を読んでいただく形にしました。

──そういう意味では、シライさんが標榜されてるインクルーシブな演劇のあり方にも踏み込んだ公演になりますね。

シライ そうですね、これは公共劇場だからできること、やっていかなきゃいけないことだと思います。自分の民間の劇団である温泉ドラゴンでやれるかっていうと、なかなか人的にも経済的にも難しいところがあるので、せっかくこういう公共劇場でお仕事させていただくので、ここから、そういうあるべき世界を作っていけたらなと思います。本当に第1歩ですね。まだまだ足りないですけど。

「ピアノと物語」シリーズの新作を作・演出

座・高円寺レパートリー「ピアノと物語」『ジョルジュ』稽古風景座・高円寺レパートリー「ピアノと物語2022」『ジョルジュ』 シライケイタが出演したときの稽古風景 撮影=梁丞佑

──年末には主催公演の「ピアノと物語」シリーズで『アメリカン・ラプソディ』に代わってシライさんがシリーズの新作を作・演出されます。これは、芸術監督就任とは別に決まっていたのでしょうか?

シライ いえ、芸術監督として来てからです、決まったのは。僕が芸術監督に就任したときは、ほぼ今年度の枠組みは決まっていたので、今ある枠組みの中で作品を入れ替えることだったらできるかなということで、「劇場へいこう!」と、「ピアノと物語」のそれぞれ1本を入れ替えようと。2本同時に変えようとすると大変なので、緩やかに1本ずつ変える提案を受けたということです。

──それで、芸術監督が作ったらどうだと打診された?

シライ そうです。僕は去年も今年も他の仕事で結構スケジュールがびっちりだったから、新作を作る余裕があるとは思ってなかったんです。それと、作品を作ることは杉並区が提示している芸術監督の仕事の中には入ってなくて、つまり作品を作らなくてもいいんですね。この劇場で何をやるかを決めて、実際に作るのは人を呼んできてもいいわけで。でも、やっぱり芸術監督が作品を作らないと外からは「シライは何してるんだ?」ってなるだろうし、劇場スタッフからもシライさんがやった方がいいんじゃないかっていうことで、芸術監督に就任してすぐに急遽、僕が外部からお引き受けしていた仕事を「ちょっと先に延ばしていただけませんか」と頭を下げて。それで、『夏の夜の夢』の稽古と「ピアノと物語」の新作の執筆時間をなんとか確保して、いまやっているっていう状況です。
ただまだ「ピアノと物語」の台本は書けてないんですけどね。クララ・シューマンを題材にするっていうことはもう決まっているので、資料はもう大体読み終わって、あとは書くだけなんですが。『夏の夜の夢』の初日の幕が開いたらもう書かなきゃいけないです。主催公演で芸術監督なので、できる限り来てお客さんとも交流したいと思ってますが、午前10時半開演なのでマチネが終わって帰ってからでも仕事できるかなと思っています(笑)。

──上演形態としてはドラマリーディングという枠組は変わらず?

シライ はい、斎藤憐さんのやり方を踏襲します。ピアニストの演奏家がいて、男女2人の往復書簡のような形という形式は踏襲して作ろうと思っています。

──ピアニストの演奏家が主軸になって、それに別の男女がからむという構成はハードルが高いですよね。

シライ つまり主役はいないんですよね、憐さんが書いた作品は。ショパンを描いているけれど、ショパンは登場しないわけです。ショパンの周辺のジョルジュ・サンドと弁護士がいて、ピアニストが演奏する曲がショパンのイメージなんですよね。だからショパンは登場しない。『アメリカン・ラプソディ』もそうですね、ピアニストのガーシュウィンは登場せず、恋人のケイ・スイフトともう1人ヴァイオリニストが出てくる。それが憐さんのやり方だったんですけど、今回は多分そうならない。今考えているのは、クララ・シューマンがいて、相手が1幕はロベルト・シューマン、2幕はブラームスっていう風に、1人の俳優さんに2役やっていただこうかなと。だから、ピアニストはクララでもあるし、ロベルトでもあるし、ブラームスでもある。ピアニストという主人公の人生を描き出す点は踏襲しますけど、描き方はちょっと違うかな。

──シライさんご自身も以前『ジョルジュ』に出演されて、今回自分でそのシリーズの新作を作るという点で、プレッシャーもありつつ、意気込みもありつつみたいな感じでしょうか?

シライ そうですね、プレッシャーはもちろんないと言ったら嘘ですけど、押しつぶされそうだというほどではないというか。そういう意味で言ったら、ここまで来るまでのお仕事の方が大きなプレッシャーの中にあった感じがあります。
この劇場は腰を据えて作品を作れる環境という感じがするんです。つまり、民間のプロデュース公演でサバイブしていたときは、1本失敗したら次に仕事が来ないんじゃないかとか、家族が路頭に迷うんじゃないかという不安がありました。そういうものすごいヒリヒリした中で生きていくしかなかった。演劇を作ることは、ほぼ自分のための活動だったわけです。でも、ここ座・高円寺はそうではなくて、区民にどういうものを提供するべきかとか、どういう作品が本当に上質なのかということを、自分の創作上のエゴと全く切り離して考えられる感じがある。その意味でプレッシャーというよりは、豊かな創作活動ができるっていう感じがしますね。もちろん責任は大きいんですけど、自分のためっていうことを考えなくていいので、考え方が少し変わった感じがしますね。

芸術監督として目指すもの

座・高円寺芸術監督シライケイタ

──芸術監督として就任されて1年2カ月経ちました。4月の今年度のプログラム説明会では、芸術監督として1年目に目指してたことが、既に高いレベルである程度実現されていたとおっしゃっていました。そのうえで、4つ新しいことをやりたいと挨拶されて、その一つが「“人々が集まる広場”から更に“集まった人たちが共に生き、育む場所としての広場”へ」というものでした。

シライ 前芸術監督の佐藤信さんは「劇場は広場である」と、人が集まる場所だっていう打ち出し方でしたよね。その集まるという部分に関しては結構実現できていて、そこで、その人たちと何ができるか、集まってきた人たちと何が作れるか、みたいなことを考えました。子供たちとか、マイノリティの人たちはもう集まっては来ていたんですけど、その人たちと一緒に垣根なくものを作っていくっていうことが、イメージとしてありました。だから、今回『夏の夜の夢』に西脇さんに出ていただいているのも、本当にその取り組みの1歩として考えてます。
子供たちとの共作みたいなこともしてみたいです。子供たちが毎週日曜日に「みんなの作業場」といういろんなことをやるワークショップに集まってくるんですね。つい先日、僕も演出っていう仕事ってなんだろうというワークショップを子供たち向けにやったんですけど、子供たちの発想とかアイデアってものすごい面白い。今までは、「みんなの作業場」とか、「絵本の旅」っていう読み聞かせだとか、GWに座・高円寺1を子供たちに解放して高円寺の新しい街を作る「みんなのリトル高円寺」とか、子供たちは集まって来ているんだけど、一緒に作品を作り出すってことはやってなくて。東京芸術劇場では、岩井秀人さんが子供のアイデアを大人が実現するようなことをやっていて、そういったことはやってみたいですね。子供が書いた意味が通じていない無茶苦茶な台本を、大人たちが真剣にやるっていう企画。今ちょっとずつ劇場スタッフにも話し始めていて、子供が書いた台本とか、子供がデザインした衣装とか美術とか、子供が歌った鼻唄とかを元にして、基本的には演出も子供で、監修で僕が入るのかどうか分からないですけど、そうそうたるプロの大人たちが作品に仕上げていくイメージです。
色んな人びとが集まった広場で共生していくっていうイメージはそういうことですかね。性的マイノリティの方とか、障がいをもつ方とか、そういう人たちとも何ができるかということも含めて、あらゆる人が一緒に生きていく世界だと考えています。
つまり、世の中が実現しなきゃいけないことをまず劇場が実現するべきだということです。劇場があるべき理想の姿をまず作っていく、示していくっていうことが、大事なんじゃないかって思います。

座・高円寺「みんなのリトル高円寺」より毎年ゴールデンウィークの時期に座・高円寺1を子供たちに解放して高円寺の新しい街を作る「あしたの劇場 遊ぼうよ! 大スペシャル」『みんなのリトル高円寺』 撮影=梁丞佑

──もう1つの目標は「遠くに届ける」というものでした。

シライ 僕は座・高円寺が、地域密着が実現されているとか、いろんな人が集まってきているっていうことを、芸術監督になってここに来て初めて知ったわけです。つまり、演劇界にいたのに知らなかった。小学校4年生全員が見に来る公演があるとかもそうです。そこで、外部に対してこういう素晴らしい取り組みをもっと知ってもらいたいし、広げていきたいです。区民に向けたアプローチっていうのはもう本当に高いレベルで実現しているので、劇場の存在感を外にも示していきたい。それは世界に向けて作品を届けるっていうことも1つですし、今ある取り組みをもっともっと知ってもらいたい。そしてこういう場所が日本中に増えていってほしいってことです。座・高円寺が何をやっているか、地域の人だけではなく演劇界にももっと広めていきたいですね。
また、レパートリー作品を1回作ったら何年も再演しているので、新作が上演されている印象があまりない。提携公演はやっていますけど、主催公演でも刺激的な新作を作っていきたいと思っています。

アカデミーの修了公演を韓国のソン・ギウンが演出

──もう1つは、「海外との文化交流の掛け合わせ」というのものです。

シライ プログラム説明会で「具体的には韓国」って言いましたけど、個人的に韓国演劇と今までご縁があったので、そのご縁をこういう公共的な場所でも、根付かせていけたらと。個人で出会っていたものが、もう少し広がっていけばいいなと思いました。僕は作品単位でこれまでやってきたわけですけど、それをもう少し広げて、劇場単位で交流できたらと。

──その意味では、シライさんが代表を務める日韓演劇交流センターが昨年から座・高円寺でリーディング公演をやっていますが、それ以外に日韓交流でやってみたい企画はありますか?

シライ 杉並区は、韓国の瑞草区(ソッチョく)という行政区と姉妹都市関係を結んでいて、韓国との交流を推進していこうとしているので、例えば瑞草区の公共劇場と作品を交換するとか。一番いいのは一緒に作品を作るっていうことが何よりの文化交流で、ゆくゆくはそういうことも提案したいですね。ただ一気に全部はなかなか難しいので、その第1歩として今年度の劇場創造アカデミーの修了公演で、韓国からソン・ギウンさんを演出として招きます。KAATで上演された『外地の三人姉妹』や『가모메 カルメギ』を書いた人ですね。僕は彼と同い年で友人だったので打診してみたら、その時期なら大学も忙しくないからやれるかもしれないと言ってくれて。すでに7月にはプレ稽古も始めています。

──そしてやりたいことの最後が「若い人を後押ししていく」ということでした。

シライ もうこれは世の中の新陳代謝を、健全に回したいっていうことです。日本社会って年長者がいつまでも居座るというか、政治の世界とか見ると顕著じゃないですか。7、80歳になった人がいつまでも権力を握っているのは、本当に醜いなと思うので、そういう意味ではきちんと次の世代にバトンを受け渡していって、次の世代が世界を動かしていくんだっていうことを劇場として体現していきたい。ここは大劇場ではないので、若い人たちのステップアップのためにちょうどいいサイズなので。100人程度の劇場でやっている小劇団が次のステップに行くための1つの通過点としても捉えられるし。世代交代の循環を正しく回していきたいですね。

──その意味では、年を明けると桐朋学園演劇専攻の卒業公演『真田風雲録』がシライさんの演出でありますね。

シライ これはもう本当にたまたまです。僕が芸術監督になる前から決まっていたことなんですが。母校なので非常勤講師をやってます。もう7、8年になります。

──そういうことも含めて、若い人たちを後押ししていく。

シライ そうですね。後押ししていかないと、というか彼らが活躍できないとダメですよね。コロナ禍以降、若い人たちが演劇界に希望をもてない状況になってしまった。いつか公演が中止になっちゃうんじゃないかとか、そういうリスクが当たり前になってしまった。劇団作るのも、公演を打つのもものすごい勇気がいるっていう感じで。だから何か希望が持てるような、そういう世界になっていったらいいなと思います。

座・高円寺、自分の劇団、外部の仕事を行き来していく

──今年度は座・高円寺でシライさんの演出が3本ということで就任2年目にしてどっぷりこの劇場に漬かっていますね。

シライ どっぷりですね。でも自分の劇団も来年は公演やります。外の仕事は多少セーブする必要があるかなとは思いますけど、でもここだけになっちゃうと、それも良くないと思っていて。やっぱり芸術監督がきちんと忙しくしてる方がいい。
つまり、外部の活動からこの劇場に関心を持ってもらってお客さんを呼んでくる必要もあって。そういう役割も芸術監督にはあると思うんですけど、その意味では外でも魅力的な仕事をし続ける、それで、興味をもってくれたお客さんが座・高円寺にも来てくれる、っていうことが理想かなと思っているんです。もちろん内部を改革していくっていうことも同時にやるんですけど。だから外でもっと商業的な大きな仕事もやっていきたいし、反対に自分の劇団のような本当に小さな活動もなくしたらいけないと思います。それと公共劇場っていう、3カ所をきちんと行き来できるようにしたい。どこかに居っぱなしじゃなくて。
小劇場から大劇場に行くと、みんな小劇場に戻ってこないことが多いですけど、でも、両方やってこそだって思いますし。その中に公共劇場っていうものが加わった、そんなイメージなんですよね。そんなうまいバランスでいけるかどうか分からないんですけど。

──その座・高円寺以外での今後の予定は?

シライ 温泉ドラゴンが2025年3月下旬に中野ザ・ポケットで新作を上演予定です。同じく3月にヴィレッヂのプロデュースでウォーリー木下さんが演出する『きたやじ オン・ザ・ロード~いざ、出立!!篇~』という弥次さん喜多さんのドエンタメ物語の脚本を僕が書いてます。東京は日本青年館、大阪がSkyシアターMBSです。あとはトム・プロジェクトさんでやった『モンテンルパ』という舞台の再々演が3月にありますね。ほかに、具体的にはまだ発表できませんが最初にお話しした、この劇場で新作を作るためにスケジュールをずらしてもらった公演が2本あります。

──お忙しい日々が続く感じですね。

シライ ずっとそんな生活なのでもう慣れました。もともと貧乏症というか、20代30代は舞台の仕事がしたくてもない状態がずっと続いていて、ずっとアルバイトしながら仕事を待つ日々を経験しているので、仕事は断れないですね。もう休みたいとか、暇になりたいって言ったらバチが当たると思います(笑)。

座・高円寺芸術監督シライケイタシライケイタ
昭和49(1974)年生まれ。演出家、脚本家、俳優。
蜷川幸雄演出『ロミオとジュリエット』のパリス役で俳優デビュー。その後、野田秀樹 、木村光一、鐘下辰男など、数々の演出家の舞台に出演。平成22年、劇団温泉ドラゴン旗揚げ公演に自らの初戯曲となる『escape』を提供。以降、同劇団内外で数々の脚本・演出を手掛ける。日本演出者協会理事長、日韓演劇交流センター会長。令和5年7月1日より座・高円寺芸術監督。
座・高円寺レパートリー「劇場へいこう!」『夏の夜の夢』
8月31日(土)〜9月21日(土)
原作:W.シェイクスピア(小田島雄志訳による)
上演台本:岩崎う大 演出・作詞:シライケイタ 
出演:山﨑 薫、木ノ下藤吉、武田知久、滝本 圭、西脇将伍、坂本夏帆、ぎたろー
詳しい公演情報はこちらから

取材:ステージウェブ編集部

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