「異なる演技表現が交差する舞台の挑戦」演出家ソン・ギウンが語る座・高円寺劇場創造アカデミー修了公演『宮殿のモンスター~The Monster in the Hall~』

座・高円寺劇場創造アカデミー修了公演『宮殿のモンスター~The Monster in the Hall~』の演出家ソン・ギウン
インタビュー
「杉並区の公共劇場、座・高円寺が演劇人を育成する教育機関として併設している学校、劇場創造アカデミーの13期生修了公演が2月下旬に行われる。今回はスコットランドの劇作家ディヴィッド・グレイグの『宮殿のモンスター~The Monster in the Hall~』を韓国ソウルから演出家ソン・ギウンを招いて上演する。日本の劇団との合同公演の経験があり、ソウル芸術大学の教授として劇作について教えているというソン・ギウンに、今回の作品のことや韓国の演劇教育などについて聞いた。ソン・ギウン

稽古場で見たソン・ギウンの芝居作り

劇場創造アカデミーは俳優のみならず演出家、劇場スタッフなどの「演劇人」を育成する学校で、伝統芸能から現代劇まで洋の東西を問わずさまざまなスタイルの舞台表現を学べるほか、劇場や地元高円寺のさまざまなイベントへの参加を通してマネジメントについても研修できるようになっている。そして2年間学んだ成果の集大成として、卒業を前に生徒たちは修了公演を行う。
本番までひと月となった1月下旬、座・高円寺の稽古場を訪れると、実際の舞台と同じ広さのスペースが稽古場を斜めに横切るようにテープで区切られていた。手前に演出のソン・ギウンらスタッフがいるほか、演技スペースのさらに奥には出番を待つ役者たちがいて、客席が舞台を挟んだ形になっている。

『宮殿のモンスター』の舞台図面『宮殿のモンスター』の舞台図面

この日は作品の前半にあたる部分の立ち稽古が行われていた。普通の会話のほかに朗読のような台詞があったり、音楽としてILLITやNewJeansのK-POPが流れたりする一方で、主人公の少女ダックが台詞をラップにして歌うなど、ソン・ギウンが「様々な演技表現の手法がいっぱい入っている」と語るこの作品の見どころが盛り込まれた場面が続く。

役名が割り振られていない不思議な戯曲

稽古場で気になったのは台本の台詞に番号が振られていることだった。各場面毎に011、012、013とすべての台詞の前に番号が付いている。実は『宮殿のモンスター』のオリジナルの戯曲は、ト書きとセリフの区別があるだけで、セリフを誰が話すのかという指定が一切ない、あたかも散文詩のような特殊な形式で書かれている。ソン・ギウンは内容に合わせてすべてのセリフを6人の登場人物に割り振って、そのうえで各台詞の役名の前に番号を付けている。
これについてソン・ギウンは稽古を「進めやすくするため」と語る。確かに、これがあれば稽古を進めていくうちに、台詞が「当初割り振った人物とはどうも違う」となった場合に変更したり、音楽の入るタイミングなどを指示したりするときにも「XX番のところ」という形で指示出しできるので分かりやすい。
多くの舞台でこの形式を使っているというソン・ギウンだが、意外にもこれは野田秀樹から学んだ手法だという。野田が2005年に『赤鬼』韓国バージョンを上演したときにソン・ギウンは演出助手を担当、野田が台本に番号を付けていることを見て、そこから学んだと語っている。

#MeToo運動が稽古場を変えた

そして、稽古場で一番強く感じたのはとても丁寧な言葉遣いで役者たちに演出しているということだ。この点については役者たちも感じているようで『想像していたよりも、自分たち役者に意見とかアイデアを求めるところが多い』という。この点についてソン・ギウンに尋ねると「日本と比べて、韓国の方が演出家と俳優の関係が平等に近いのではないか」と語る。それは2017年以降に世界的な問題となった#MeToo運動の流れのなかで、韓国では演劇界の重鎮であった劇団木花のオ・テソク、演戯団コリペのイ・ユンテクらがセクハラ問題で告発され大々的なニュースとなって、演出家の権威性への警戒心が強まったことが影響していることもあるようだ。また、演劇学校の公演ということで、ソン・ギウンが自身の演出スタイルを打ち出すのではなく、普遍的な方法論や作り方で演出するようにしていることも、丁寧に気配りしているように感じさせるのだろう。

母語を使えないことが生んだメリット

何よりも稽古風景を見ていて驚いたのは、外国人演出家で翻訳劇を上演する稽古場なのに、通訳もおらず、ほとんど日本語だけで稽古が進んでいるという点だ。これについては、ソン・ギウンの日本語が堪能なところが大きい。なにしろ韓国語が使われるのは彼が演出助手のチェ・ヨンウォンに指示や確認をするときだけで、それすらも多くは日本語で役者やほかのスタッフに分かるように配慮されていた。誤解がないようにソン・ギウンもしばしば自分の話す内容について「この言葉で合ってますか?」など確認をしながら演出を進め、役者や日本のスタッフも丁寧に自身の考えを説明している。演出家が母語を使えない分、コミュニケーションなどでハンデがまったくない訳ではないだろうが、むしろ通訳なしで互いの意志を確認することで、全体のコミュニケーションが密に取れているようだ。一般的な外国人演出家のいる稽古場に比べれば圧倒的にスムーズに稽古が進んでいると感じられた。

様々な演劇スタイルと表現手法を盛り込める作品

ポストイットに書き込まれた作品にまつわるキーワードポストイットに書き込まれた作品にまつわるキーワードが稽古場に張り出されている

今回上演される『宮殿のモンスター』は、スコットランドの人気劇作家ディヴィッド・グレイグがグラスゴーの地域劇場シティズンズ・シアターの委嘱を受けて書き下ろした作品で、小さな街に住む16歳の少女ダックと多発性硬化症を抱える父親の物語だ。幼い頃にバイク事故で母を失い、今はヤングケアラーとして父親の面倒をみるダックは、児童福祉局のカウンセラーが来ると聞いて、施設送りにされまいと、父との生活が問題なく出来ていることを見せようと必死になる。

今回、アカデミーの修了公演としてこの作品を取り上げることを提案したのはソン・ギウン自身だったという。

「演目を決めるときには現実的な条件、出演者の数とかキャストの性別などを考えて決めるわけです。戯曲の登場人物は数人で、今回のアカデミー生の出演者が6人です。私自身が戯曲を書いた作品では、キャストの人数が合うものが思い浮かばなかったですし、韓国を舞台に韓国語で書いた戯曲よりは、イギリスの戯曲でやる方が、日本の演劇学校の修了上演としても合うと思いました。
また、座・高円寺1で上演しますが、この劇場がブラックボックスで空間を自由に使えることを知っていたので、客席を自由に設置できると考えました。実は以前、韓国の演劇学校でもこの作品を演出して、対面客席で上演したんです。座・高円寺1なら対面客席で演出できるという点もこの作品を選ぶポイントとして大きかったです。
それから、この戯曲は朗読があったり、歌うところがあったり、普通に演技するシーンもあったりするので、いろんな演技スタイルや表現の方法が入った演出にしようと思います。それは、実際にやろうとすると難しいかもしれないですが、今の時代の演劇学校の修了上演として、ふさわしいんじゃないかと。学生たちはいろんな方法論とかメソッドを学んできたと思うので、それを全部使って応用して表現するような、そういう舞台になると思いました。
ちなみに今回はこのアカデミーの修了公演を演出するわけですから、教えるみたいな立場ではありますけれど、演出家としてはもちろんクリエイティブな仕事にしなければいけないと思います。演出家の私にも興味がもてて、芸術的に演劇的に表現したい、トライしたいという、そういうチャレンジャブルな仕事にした方がいいと思ったんです。韓国では『宮殿のモンスター』は、私が演劇学校で演出した後、他の演出家が一般向けの公演をして結構成功したので、私がプロフェッショナルの公演として演出するチャンスがなくなってしまったんです。8年前に韓国の演劇学校で演出したものからもっと深く演出したい、私なりの『宮殿のモンスター』を韓国でいつか上演したいと考えていたこともあって、今回この作品を取り上げました」

本格的なラップを効果的に使う

韓国でも演劇教育の場で『宮殿のモンスター』を手掛けたというソン・ギウンは、演出面では韓国での上演と大きな変更はしないと語りながらも、もっと面白い舞台へと完成度を高めたいと話す。

「海外から来ていて、この戯曲のボリュームというか、様々な表現をやっていることを考えると、ちょっと稽古の時間も足りないくらいです。それで、韓国で私がやった演出をベースにして、完成度はもっと高く、もっと面白い舞台にしたいと思っています。
韓国で上演したときには簡単なラップを2カ所で2曲ぐらい歌いましたが、今回はラップをもっと本格的に使うことにしています。ちょうど高円寺在住のyoung donutsというラッパーに曲を作ってもらったりラップの指導を受けたりしています。結構楽しみにしています(笑)。ちなみに元の英語の戯曲ですと、テキストの一部がイタリック体になっています。翻訳の中山さんは、ここが歌うパートだったんじゃないかと指摘していました。グラスゴーでの初演では、結構歌っていたみたいです。私の演出では、音楽を多用することで抽象的に表現するよりは、逆に音楽を少なくして、言葉でちゃんと演じたり、再現してみせるシーンを多くしました。音楽的な表現を部分的に集約させる方が、この戯曲の世界に合うと思います。それでラップを使うことにしました」

作品のドラマに実際のパフォーマンスを重ねる“メタシアター”

『宮殿のモンスター』稽古風景

今回の作品ではさまざまな表現を使うというソン・ギウン。劇中では出演者やスタッフが、客席に向かって「座・高円寺のアカデミー生です」と挨拶するなど、演劇作品の中で演劇作品を語る“メタシアター”的な手法も取り入れている。

「メタシアター的な手法は好きです。ブレヒト的なスタイルだと思ってます。ドラマの中に入っているだけじゃなくて、ドラマの外側に出たりする演劇ですね。劇場で上演している作品のドラマと、実際にやっているパフォーマンスを重ねて見せることが好きです。私は、平田オリザさんの戯曲を演出するときなどは比較的大人しい演出をしますが、一方で今回のような作品ではメタシアター的な演出をします。『宮殿のモンスター』では、私はいくつかのスタイルを使っていて、ブレヒトとドラマリーディングなどを合体して混ぜたような演出です」

『宮殿のモンスター』のグラスゴーでの世界初演では、マイクがあるだけで装置はなく、サングラスなど最低限の小道具だけで上演されたというが、今回ソン・ギウンはいくつか装置も使って、役者たちのリアルな演技を引き出そうとしている。

「ビーズソファーを1つと箱馬みたいなボックスを5つ使いますし、劇中で戸棚に人を隠すという場面があって、戸棚のドアは実際に作ってもらいます。また、2階建ての家という設定になっていて、客席の真ん中の通路を階段として役者たちが登っていったりするので、ある程度物理的な装置は使うことになります。
物理的な装置とか小道具を使うシーンがあったり、全然使わずにマイムで演じるシーンがあったりと、異なる演技手法を両方やります。
平田オリザさんの影響もあって、登場人物の心理とか個性だけではなくて、その人物が今置かれている状況とか物理的な環境は、演出に取り入れる方です。今回の舞台でも多くのシーンでそれを入れる予定です」

俳優の即興性を取り入れる

ここで平田オリザの名前があがったが、ソン・ギウンは平田オリザの韓国で出版された戯曲集などの韓国語への翻訳を行っている。それもあって、平田の現代口語演劇に共感しており、今回の公演でもなるべく稽古場で生まれた状況を俳優とともにセリフに反映させているという。

「韓国語にも日本語と似たように語尾が色々あって、語尾によってニュアンスが違ったりします。そういうことをすごく使うんです。ただ今回は母語じゃない日本語ですので、自由にそういう表現ができません。今回の作品は戯曲の特徴として俳優の即興性を反映した方がいい作品なので、稽古場の演出で生まれた状況などを俳優と相談して反映して、できるだけ話し言葉にしています。
また、この作品はブレヒト的な構造をもっているので、スコットランドの文化をそのまま見せるのではなくて、スコットランド人の物語に今の日本人の文化を反映したりする作業もしています」

大人が見ても面白いティーンエイジャーのための芝居

この作品は日本でも近年社会問題化している“ヤングケアラー”を取り上げた作品だが、ソン・ギウンはそれよりもティーンエイジャーの物語としての部分に惹かれたという。

「正直に言うと、ヤングケアラーということにフォーカスが置かれているということは、昨年7月に来た時に翻訳家の中山夏織さんにお会いして初めて聞いた話でした。韓国ではヤングケアラーということが日本ほどは社会問題のキーワードにはなっていません。
私はこの作品をティーンエイジャーが主人公の、青少年に見せて楽しんでもらえる優れた青少年劇として知りましたし、同時に大人が見ても結構面白い、青少年と大人が一緒に見られるような作品として興味をもちました。
児童劇は結構数多くありますが、ティーンエイジャーのための劇は、日本も、もしかしたらイギリスでも多くはないのではないでしょうか。韓国では国立韓国芸術総合学校の大学院でも青少年劇を専攻として教えていますし、国立劇団にも児童青少年劇研究所という部門があって、演劇界でこの10年くらいで青少年劇というものが注目されています。そのため劇作家も青少年劇というものを意識して書くようになっています」

ジェネレーションギャップの物語

『宮殿のモンスター』稽古風景

この物語のタイトル『宮殿のモンスター』は、直接的には主人公ダックの母親の残したオートバイ“ドゥカティ”のことを意味するが、象徴的に考えると、母親の死のトラウマであり、またダックが密かに描いている小説に登場するモンスターのことでもあり、さらには「ダック」という名前自体が“ドゥカティ”の愛称であることからダック=モンスターとも読み取れ、さまざまな解釈が成り立つ。

「私もそこに注目しています。先ほど社会問題の話が出ましたが、私が注目しているのは、ジェネレーションギャップみたいなことです。イギリスもそうですし、韓国も日本もそうだと思いますけれども、私に近い世代──社会がちょっと豊かになって若い時代をエンジョイしていた人たちは、子どもができて親になったのにも関わらず無責任で、さらにアンラッキーなことに病気になったりしている。それに対してその子どもにあたる若者たちの方は逆にアナログで真面目、保守的というか古い考え方をもっている。むしろ親の世代がデジタルやオンラインゲームにハマっていたり、バイクで冒険しようとする。だから、ヤングケアラーという観点よりも、親の世代が親としての責任感とか経済的能力が足りなくて、その子供たちが、自分のアイデンティティを探していたり、自分なりのしっかりした生き方を自分の力で見つけていく。そういうジェネレーションギャップの話として新鮮だなと思っていますし、それが昔のような親子関係じゃない今の時代らしい。関係が逆転されている、そういう親子の関係性に注目しています」

日韓の交流・日韓演劇交流センターと韓日演劇交流協議会

今回ソン・ギウンが劇場創造アカデミー13期生の修了公演を演出するのは、座・高円寺のシライケイタ芸術監督との交流があったから。この二人が知り合うきっかけとなったのが、日本の日韓演劇交流センターと韓国の韓日演劇交流協議会が、相互に隔年で開催している両国の戯曲のリーディング公演だった。

「シライさんが日韓演劇交流センターの会長になられましたが、その韓国側の窓口になっている「韓日演劇交流協議会」でも世代交代があって私が副会長になりました。
日韓演劇交流センターは、この座・高円寺で韓国現代戯曲ドラマリーディングというのを隔年でやっていて、それが『宮殿のモンスター』の翌週に予定されていますが、同じように韓国でも隔年で「現代日本演劇朗読公演」というものをやっています。
それで、2020年にシライさんの戯曲『BIRTH』が取り上げられた際に彼がソウルに招待されて、その時に知り合ったんです。まだシライさんが日韓演劇交流センターの運営委員だったときのことです。その後、日本側が世代交代して、シライさんが会長になった時に、韓国側も同じタイミングで会長が変わり、私も運営委員から副会長になって、同じ時期にこの日韓の演劇交流を、先輩から引き継いで運営する、そういう協力関係になりました」

日韓の演劇教育

今回『宮殿のモンスター』を上演する劇場創造アカデミーに限らず、新国立劇場や劇団の養成所など、さまざまな育成機関がある。だが、近年は少子化やメディアが多様化するなかで俳優養成所の志願者が減少しており、多くの俳優を輩出してきた舞台芸術学院が2026年3月で閉校することが明るみになっている。一方、ソン・ギウンによると韓国では劇場や劇団でなく、大学が俳優養成の役割を担っており、しかも少子化が問題になっているなかで、大学の演劇学科は高倍率を維持しているという。

「韓国では大学で演劇を教えることがもう一般的になっていて、本当に多いですね。一方で劇団や劇場で演劇教育をしたり、俳優を育てたりすることはあまりないです。国立劇団では、ときどき青年演劇人教育といったプログラムが作られたりします。また韓国には、日本にはちょっとないですが、市立劇団とか道立劇団(日本での県立に相当)、地域によっては区立劇団もあって、そういう劇団には、インターンシップの若い劇団が併設されていることもあります。でも韓国ではもう大学で演技を教えることが主流です。個人的には大学でやりすぎだと思います。
もちろん少子化の影響で、大学に演劇コースがありすぎて、ちょっとソウルから遠くにある大学なら志願者は結構減ってきています。でも、先ほどの国立演劇大学とか、私が教えているソウル芸術大学とか中央大学とかは受験倍率が、演技コースで100倍以上あります。韓国芸術総合大学ですと140倍ぐらいで、それがずっと下がっていないです。韓国全体では人口は減っていますが、演技を学ぼうとする人は減っていない気がします。ただ、これは演劇だけじゃなくて、演劇コースというのは映画も含まれているので、本当に舞台の俳優になりたい、舞台で演技したいという人は少なくなっているかもしれません。ただそれでも、日本のように問題になるほどではないです」

韓国演劇の新しい流れ

学生時代から演劇公演の通訳や戯曲の翻訳などで日韓をつなぐ演劇交流に携わってきたソン・ギウン。今ではさらにその下の世代がその流れを継承している。若手の演出家や劇作家で注目している存在はいるのだろうか?

「私が好きな若い演出家で日本でも結構紹介されているのが、キム・ジョン(김정)という40歳の若い男性の演出家です。去年8月に日本に来て、青年座がプロデュースした『妻の感覚』(作=コ・ヨノク)という舞台の演出をしました。以前にも「フェスティバル/トーキョー」で松井周さんの脚本で『ファーム』(2019年)、『神の末っ子アネモネ』を演出しています。私とは演劇のスタイルは違いますが、俳優の力を引き出す演出家としての能力が優れてますし、イメージの作り方がユニークで、ちょっと天才的な才能をもっていると思います。
劇作家については名前をあげるのがちょっと難しいです。韓国は優れた役者が多くて演技はうまいけれど、劇作はちょっと弱いとよく言われます。劇作家の層が日本より薄いですね。ただ、最近は若い劇作家が増えて、いろんな才能をもっている人が登場している気がします。これには大学で劇作を教えていることも影響があるかなと思います。例えば、私は韓国総合芸術学校の大学院で演出コースを卒業しましたけども、そこには劇作コースもあって、才能をもっている人が集まって、たくさんの新人劇作家を輩出しています。
韓国では以前は作・演出を一緒にやる人が多かったですが、最近は文学的なベースをもっている人も多いですし、ポストドラマ的な挑戦をしている劇作家も多くて、劇作だけの劇作家という若い30代の人が結構出てきている。劇作家の層が薄いという韓国がこれからは変わっていくんじゃないかと期待しています」

演出家ソン・ギウンソン・ギウン(성기웅)
1974年生まれ。劇作家、演出家。延世大学国語国文学科在学中の1999年に東京外語大学で交換留学生として日本語を学ぶ。帰国後、韓国芸術総合学校演劇院芸術専門士演出科を卒業し、2003年平田オリザの戯曲を自ら翻訳上演した『バルカン動物園』で演出家デビュー。また自身で作・演出した『三等兵』を皮切りに、劇作家としても活動を開始。その後、劇団「第12言語演劇スタジオ」を旗揚げした。日本では、自身の劇団と多田淳之介の東京デスロックの合同公演で2014年に上演された『가모메 カルメギ』でその名が知られるようになり、両者のコラボレーションは2015年に「テンペスト」を翻案した『颱風奇譚 태풍기담』、2020年の『外地の三人姉妹』へと続いた。また、2015年には青年団と第12言語演劇スタジオの合同公演『新・冒険王』では平田オリザとの共同脚本・共同演出を行った。2011年『カガクするココロ─森の奥編』(平田オリザ作)で大韓民国演劇大賞作品賞を受賞、2012 年に『多情という名の病』で第 1 回 ソウル演劇大賞演出賞、2013 年に『カルメギ』で第 50 回東亜演劇賞作品賞・ 演出賞・視聴覚デザイン賞、2014 年に第 4 回斗山ヨンガン芸術賞、今日の若者 芸術家賞(文化体育観光部長官賞)を受賞。
座・高円寺劇場創造アカデミー 13期生修了上演『宮殿のモンスター~The Monster in the Hall~』
2月21日(金)~23日(日)
作:デイヴィッド・グレイグ
翻訳:中山夏織
演出:ソン・ギウン(성기웅)
美術:鈴木健介
照明:岩城保
音響:島 猛
衣裳:今村あずさ
ラップ監修:ヤングドーナツ(young donuts)
音楽協力:ミン・チャンホン(민찬홍)
音響協力 イム・ソジン(임서진)
振付協力:小野寺修二
演出助手:チェ・ヨンウォン(최영원)
舞台監督:佐藤昭子

出演:座・高円寺劇場創造アカデミー13期生
白江咲子(舞台演出コース)
田中 綸(演技コース)
大宮司 星(演技コース)
間宮大貴(舞台演出コース)
箕輪菜穂江(演技コース)
吉田真夕(舞台演出コース)

詳しい公演情報はこちらから


取材・文:ステージウェブ編集部 柾木博行

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